改定宗教法人法による書類の提出拒否に連帯を/京都仏教会(平成16年)

改定宗教法人法による書類の提出拒否に連帯を

平成16年(会報77)

 平成七年に宗教法人法の一部改正が臨時国会で可決され八年半が経過しました。この「改正」は、オウム真理教のようなカルト事件の再発防止対策に名を借り、その実は政治的利害を主な動機とし、宗教法人法の本来の制定目的を歪める「改悪」であることは当時、強く指摘されておりました。京都仏教会もまた、所轄庁による質問権や備え付け書類の所轄庁への提出義務など、「官」による宗教の管理監督という方向性を持つ宗教法人法の改正には、信教の自由、政教分離という憲法の原則を冒す内容が含まれていることを指摘し、これに反対する立場を訴えて参りました。
 このうち、備え付け書類、つまり役員名簿、財産目録、収支計算書、境内建物に関する書類の提出義務化に関しては、改定法制定後(平成八年)の文部事務次官通達で「当該宗教法人が規則等にしたがってその目的に沿った活動を行っていることを、所轄庁が継続的に確認するためである」と説明されています。しかし、宗教活動は宗教法人が自らの責任において行なうものであり、認証制度のもとでは、所轄庁がそれを「継続的に確認する」権限はありません。その後、不活動法人の把握や宗教法人の透明性を高めるため、といった解釈が文化庁から示されていますが、この書類提出の義務化が基本的に憲法の政教分離原則に反するものであるのは明らかです。
 私たち京都仏教会は改定宗教法人法のそうした問題点を重視し、たとえ法律として成立した場合でも、違憲、無効の疑いが強い法規制に対しては国民の抵抗権があるという認識から宗教法人備え付け書類の提出拒否を呼びかける運動を続けてまいりました。この提出拒否運動はすでに六年の長きに及びます。その間、問題意識を共有する様々な宗教者との意見交換の機会を持つことができました。そして、この運動を進める中で、新たに私たちの目に見えてきたことがございます。
 私たち京都仏教会と関西の宗教者有志で組織する「国民と宗教のあり方を問う関西宗教者の会」はこの宗教法人法の改定問題を契機にスタートした組織ですが、そこでは、日本弁護士連合会が作成した宗教ガイドラインの問題や公益法人制度改革問題、教育基本法改正問題なども論じてまいりました。そして、議論を重ねる過程で、こうした諸問題は根本的には「宗教法人法の『改正』」が露わにした国家と宗教の関係に係わる問題と密接に繋がっている、と捉える視座が必要であることが、ますます明白になってゆきました。私たちはこうした認識をもとに、いま改めて、政教分離の原則を歪め、信教の自由を侵すおそれの強い平成七年の宗教法人法「改正」の違憲性を、広く宗教界に訴えたいと考えます。

 さて、私たちが今、書類提出問題の再考を呼びかけるのはもう一つの理由があります。
 ご承知の通り、鳥取県はこのほど県の情報公用条例に基づいて宗教法人の届け出書類を請求者に開示いたしました。都道府県における宗教法人備え付け書類の写しの扱いについては、平成十年七月二十三日付の文化庁宗務課長通知により法務局への登記事項など公知の事項を除き原則非開示とすることが指示されています。しかし、鳥取県は、平成十二年の地方分権一括法施行で国の機関委任事務とそれに関する国の包括的指揮監督権が廃止され、この宗務課長通知も効力を失っているとし、提出後の書類の管理は県の自治事務であるという解釈を示しました。そして、鳥取県神社庁の照会状に対する回答では、請求者が利害関係人でなく、正当な利益に基づく請求でなくとも、県の情報公用条例に基づいて開示決定ができる、と明言しています。
 その後、文化庁は二月十九日付で「宗教法人法に係る都道府県の法定受託事務に係る処理基準について」と題する各都道府県知事宛の次長通知を発行し、届け出書類の「原則非開示」を強調しました。しかし、新聞報道によると、これに対して片山善博鳥取県知事は「文化庁は地方自治法や地方分権を理解していないのではないか」「開示されたくないのなら宗教法人法で定めればよい。文化庁は勘違いしている」と批判しています。
 私たち京都仏教会は、平成十一年に二度目の書類提出拒否の呼びかけを皆様にお送りし、書類を提出した主教法人の意に添わぬ形で情報公開が行なわれることを予測し、その問題点を指摘いたしました。今回、鳥取県の事例が大きく報道され注目を集めましたが、文化庁の「通知」に拘束されない開示決定の例は他の地方自治体でもこれまでに存在した、という調査結果も出ています。情報公開が社会の要求であり、公文書は原則として国民に開示されるべきであると考えられる以上、文化庁の「通知」の効力は疑わしく、地方自治の立場から情報公開条例に基づく独自の判断を下す自治体が、今後も相次ぐであろうことは十分に予想されます。そもそも宗教法人を指導・監督すべき立場にはない所轄庁に意味もなく書類提出を義務づけたこと自体が誤りなのです。
 情報公開は宗教法人が自主的に努力すべきことであります。宗教法人が行政の「監督」下に置かれ、宗教活動の報告を義務づけられ、行政のシステム中に組み込まれた形で宗教法人の情報が社会に公開される、というのは政教分離のあるべき姿ではありません。この歪んだシステムを作ったのが改定宗教法人法であることを、今一度、思い起こして頂きたい、と私たちは考えます。法律が規定していることとはいえ、備付け書類提出はこの誤ったシステムを補強することにつながります。過料(一万円)を受けることも覚悟の上で、連帯して書類提出拒否の輪を広げようではありませんか。この機会に書類提出を再考して頂きたく、ここに呼びかけを行なうものです。

平成十六年三月
京都仏教会