会報67-2 (平成11年)
提出書類について
京都仏教会

宗教法人各位

謹啓

 貴宗教法人におかれましては益々御清祥の御事と存じます。

 さて宗教法人方が改正され三年が経過し、書類提出作業が具体的に進められる中で教団、宗派、教区との調整や所轄庁との対応等の問題で全国の宗教法人から京都仏教会にお問い合わせが多くなってまいりました。したがいまして、前回呼びかけをした当会として、その後の展開の資料を中心に考えをまとめ第二回目をお届け致しますので、貴宗教法人の今後のご判断の参考にして下さいますれば幸甚に存じます。なにとぞご熟読の程よろしくお願い申し上げる次第でございます。

<所轄庁への書類提出の義務化について>

 さて平成七年秋、宗教法人法の一部改正が成立して以降、平成十年度は宗教法人にとって初めて所轄庁へ備え付け書類の一部を提出する事が義務付けられ具体的に作業が行われました。その内容は、旧法では義務付けられていない「収支計算書」や「境内建物に関する書類」の作成・備え付けを義務付け、その上で「役員名簿」「財産目録」「収支計算書」「貸借対照表」(作成している場合に限る)「境内建物に関する書類」「収益や収益事業に関する書類」の写しを、毎会計年度終了後四ヶ月以内に所轄庁に提出する事を義務付けるものであります。収入が八千万円以下の宗教法人については「役員名簿」「財産目録」を提出する事になります。この提出義務に違反した場合には、代表役員等を一万円以下の科料に処することとしています。

 平成十年度提出率は現在、約八十七パーセントであるかに聞き及んでおり、ほとんどが提出しているという印象がある半面、残る十三パーセント約二万四千もの宗教法人が提出していない状況にあります。この改正は、当初オウム対策といいながら宗教界において十分な論議がなされていないまま、政府は時の臨時国会に間に合わすように急いで可決成立した経緯があります。国民世論の多くはオウムの事件を念頭において、宗教法人法の内容を知ることもなく只ただ政治の誘導の中で「宗教法人法を改正すればオウム対策になる」と大きな誤解をしたのであります。現在オウムは宗教法人法改正に関係なく活動を続け、むしろ活発化していることを考えますと、あの慌てた改正は一体なんだったのか。少なくとも改正はオウム対策ではなかったことは明かです。

 また、この法の改正の目的がどこにも明記されておらず、平成八年に文部省事務次官通達により「当該宗教法人が規則等にしたがってその目的に沿った活動を行っていることを、所轄庁が継続的に確認するためのものである。」という文書が出されています。宗教法人がその目的に沿った活動をしているかどうかは、宗教法人自らの責任において行われるものであり、当会は「所轄庁への書類提出の義務化」は、憲法の政教分離原則に反するおそれが大であり、認証制度のもとでは所轄庁に「宗教法人の活動を継続的に確認する」権限はないものと考えています。書類提出を拒否することにより法の再改正を求める意思表示をすることが、宗教界の正しい選択であると考え、書類提出を拒否しています。貴法人ではどのようにお考えでしょうか。

 その後、不活動宗教法人を把握するためとか、宗教法人の透明性を高めるためとか等の行政側の解釈がなされていますが、不活動法人を把握することは行政ではなくむしろわれわれ宗教法人の責務でもあります。書類の提出率が問題なのではありません。提出している宗教法人もしていない宗教法人も、内容の把握が問題なのであります。提出している宗教法人は、今回の改正内容がどのような意味を持つのか、宗教法人法の理解や歴史、信教の自由と政教分離の原則、国家と宗教についてよく考えた上での提出なのかどうか、ただお役所がいうのでとか、まわりの宗教法人が出しているからとか、宗派が勧めるのでとかでは、根本的にこの問題に対応していることにはなりません。ましてや改正内容も知らず提出している宗教法人があるとするならばこの際、今からでも問題意識を強く持っていただきたいと存じます。

<過料について(書類提出をしなかった場合)>

 改正宗教法人法により宗教法人は毎会計年度終了後、四ヶ月以内に書類を所轄庁に提出することを義務付けられました。が、提出がなかった場合督促状が各宗教法人に対し数回郵送されます。それでも提出しなかった場合、裁判所を通じ過料に処せられる旨の通知がまいります。

 過料は、広い意味では罰則に該当しますが、刑罰ではなく前科にならない性格のものです。刑法所定の刑罰の中で、金銭を取られるという点では「罰金」「科料」と類似しますが、罰金、科料の場合、それを納付しないと一定の期間、「労役場」に留置されるが、過料の場合はそれがない点で決定的に異なり、民事罰ともいわれています。今回、宗教法人法の規定する過料は「通常の行政上の秩序罰たる過料」に属し、その中の特殊法人組合に関する法規によって適用されます。非訟事件手続きで審理・決定されるのですが、地方裁判所を管轄裁判所とするものに属します。提出義務に違反した場合は、代表役員などに一万円以下の過料が地裁より通知されることになります。過料を支払えば完了となりますが、それを拒否した場合は、略式手続きによる裁判に対して裁判所に異議申し立てができます。また、その裁判に憲法解釈の誤りがあること、その他憲法上の違反があることを理由とするときに最高裁判所に特別抗告ができます。異議申し立て、特別抗告をへて棄却の場合、預金通帳等一万円の過料差押さえとなります。

 当会は、この二度に渡る呼びかけを通じ、一万円の過料は払っても書類は提出しないという抵抗運動(罰則は甘受するが服従はしない、非暴力・不服従のガンジー主義のような抵抗運動)によって、法の再改正につながるよう、みなさまとともに粘り強く運動を押し進めたいと存じます。

<情報公開法との関連性について>

 平成九年十月、日本宗教連盟は総務庁に対し、所轄庁へ提出した書類を情報公開法の適用除外とするか、不開示情報として明示するかという趣旨の要望書を提出しました。結果的に、総務庁と文化庁との間で確認書が交わされた、「行政文書の開示義務・第五条第2号イ『当該法人等または当該個人の権利』の箇所の『権利』に『信教の自由』が含まれる」としています。情報公開法の情報開示制度は、何人に対しても開示を請求する理由や利用の目的を問わず、行政に提出した書類の開示を請求することができる権利を定めるものでありますが、宗教法人法では第二十五条三項の「閲覧請求者の限定」や第五項に「提出された書類を取り扱う場合は、信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない。」とあり、ここに法制上矛盾が生じたのです。

 現在、この確認書によって一応宗教法人の提出書類は全て公開されることなく取り扱われていますが、今後行政文書は例外なく原則全て公開すべきであるという世論が大勢を占めてゆく中、非開示文書として法律条文に明記されていないということは、個別の文章の公開が「信教の自由の侵害」にあたらないと判断された場合(行政判断によるのか,司法判断によるのか、ケースバイケースでしょうが、提出する宗教法人の思う通りではないことが多いでしょう)には、いつでも公開される可能性があるということですから、書類を提出するということは、「当該法人に敵意をもつ相手方に対しても情報が漏らされる可能性が常にありえる」ということを確認をする必要があります。

 そうなりますとますます何のための提出なのか、この改正法の矛盾が指摘され始めています。また、文化庁は各都道府県の担当者を召集し、包括宗教法人や地方の教区等に対し、提出していない非包括宗教法人の名簿を開示し、未提出の宗教法人に対し、提出を促すよう協力を求める指示をしました。個々の独立した宗教法人それそれの判断で対応すべき問題であるにもかかわらず行政の裁量によってどの宗教法人が提出し、その宗教法人が提出していないかが、たとえ包括、非包括の関係といえども、情報がいともたやすく開示されている状況には深い疑念が生じ、今後法的な議論が加えられると存じます。

 各宗教法人の代表者におかれましては、どうか当会の四年に渡る改正宗教法人法に対する研究と反対運動の趣旨をご理解ご参考賜り、初年度提出された宗教法人各位も、次年度の提出の際はご再考頂ければと念じてやまない次第でございます。

合掌

平成十一年四月

京都市上京区烏丸今出川通東入相国寺門前町六八四の一
電話 〇七五−二二三−六九七五

京都仏教会

ウィンドウを閉じる