会報60-3 (平成8年)
要望書(文部大臣、新進党)
京都仏教会

<要望書 新進党>

平成七年八月二十五日
新進党 「政治と宗教に関する委員会」
委員長 愛知和男殿

要  望  書

謹啓 貴党におかれましては、御清祥の御事と存じあげます。

 私ども京都仏教合は、清水寺、金閣寺、銀閣寺等京都の著名寺院を中心に各本山、門跡寺院、京都府下仏教会、会員寺院約一千ケ寺で構成されます寺院の団体です。常日頃より、宗派を越えた仏教行事、社会福祉、文化事業、社会間題など積極的に取り組み活動の基盤と致しております。

 さて、当会では昭和六十三年より「宗教と政治検討委員会」を発足し、仏教学、宗教学、社会学、憲法学、税法学の学者、弁護士の方々に委員として参画していただき、信教の自由や政教分離、宗教に関わる社会問題について考察し研究冊子を刊行するなど活動して参って来ております。現在、当会が「宗教と政治検討委員会」を機軸に、緊急かつ重要な問題として取り組んでおりますのが、オウム真理教をめぐる昨今の社会情勢を背景に、政府・与党を中心に沸き起こっております宗教法人法見直し論議であります。宗教法人法の制定時に、当局は全国の宗教法人を訪ね歩き慎重に状況調査を行いました。その上で憲法の基本理念である政教分離に基づき制定された現行の宗教法人法は、人の精神の自由、信教の自由を尊重し、ノーコントロール、ノーサポートを基調としたすぐれた法律であります。

 しかし、現在の政府・与党はこの制定の経過や内容を重んじることなくオウム事件を契機に「現行の宗教法人法は甘い、全国展開をしている宗教法人の活動について、所轄庁がまったくその実態を把握できないようなことでよいのか」との国会での質疑をもとに、宗教法人の活動報告義務を強化する、全国展開する宗教団体の所轄庁を都道府県知事から文部大臣に移行するなどの法人法の見直しを検討しはじめた模様であります。

 オウム事件を背景に一見もっともであるかのようなこの法見直し論議も実は宗教法人法に対する考え方の根本を誤っているものといわざるをえません。所轄庁がその所轄する法人の実態を把握しておくべきだという考え方は、宗教団体が悪いことをしないように、所轄庁が目を行き届かせておくべきだという思想に立脚しているものであって、信教の自由、政教分離の精神を理解しないものであります。また、所轄庁に活動報告をさせるという考え方は、その活動を事前にチェックするという思想であり、これは単に行動を規制するに止まらず、その思想、信条への干渉を招くことが必然であります。

 オウム事件の本質は犯罪行為であって、これは刑法の対象であり宗教法人法の不備によって起こった事件ではありません。極端な事例をもって宗教法人法の根本を理解せず、刑法の対象と混同し、拙速に法の見直しをされるべきでは断じてありません。新進党「政治と宗教に関する委員会」におかれましては、どうか当会の主旨をご理解賜り、信教の自由、政教分離の大原則が揺るぎないよう国会において政府・与党に対し、宗教法人法見直しの阻止をしていただくよう強く要望申し上げます。

合掌

京都仏教会
理事長 有馬頼底

 

<要望書  文部大臣>

平成七年九月十九日
文部大臣 島村宜伸殿

要  望  書

謹啓 文部大臣におかれましては御清祥の御事と存じあげます。

 私ども京都仏教合は、清水寺、金閣寺、銀閣寺等京都の著名寺院を中心に各本山、門跡寺院、京都府下仏教会、会員寺院約一千ケ寺で構成されます寺院の団体です。常日頃より、宗派を越えた仏教行事、社会福祉、文化事業、社会問題など積極的に取り組み活動の基盤と致しております。

 さて、当会では昭和六十三年より「宗教と政治検討委員会」を発足し仏教学、宗教学、社会学、憲法学、税法学の学者、弁護士の方々に委員として参画していただき、信教の自由や政教分離、宗教に関わる社会問題について日頃より考察して参って来ております。

 今般、オウム真理教が起こした一連の犯罪行為に対する世論を一つの背景として、宗教法人法見直しの作業が文部省を中心に行われていますが、オウム教の起こした事件と宗教法人法見直しがどう関連するのか私どもにはよく理解できません。オウム教の起こした事件は犯罪行為でありあくまで刑法の対象であります。

 私どもがこの問題に携わる経過の中で、この法人法見直しの作業は、実は別の目的をもって行われていると思わざるを得ない状況があります。昨年の四月に結成されました四月会という団体の動向が、一つの事実を示していると判断しております。仏教会はかねてより、宗教と政治の関係については関心をもっておりましたので、呼びかけに応じ、この会の結成に参加致しました。しかしながら四月会は、当初より宗教法人創価学会に政治的な攻撃を加えることを目的に結成されたものでありました。結成式のおり壇上に並ばれた政治家の方々は、総理大臣をはじめ、いずれも現内閣を構成する顔ぶれでありました。勿論貴文部大臣も自民党の一員として壇上に並ばれておられたと記憶しております。

 そうした状況の中で、今年七月に行なわれました参議院選挙の結果、創価学会の集票力が野党勢力の拡大に繋がったことで、政府与党は危機感をより増大させ、一挙に宗教法人法見直しへと加速的に動き出したと考えております。政党間の利害をもって宗教法人法の見直しを持ち出されるのは正道ではありません。しかもことは憲法に関わる重大な問題であります。もし見直しの必要性があるとするならば、当然の事ながら政治側も宗教側も充分なる論議を踏まえなければ結論の出せぬ間題であると認識しております。

 政府が民主主義国家の大原則である信教の自由に関わる問題を政争の具として、見直しを図ろうとされることは、いかにも法を軽んずる行為であり、憲法への冒とくに繋がりかねない懸念をはらんでいると言わざるをえません。このような状況で文部省が見直し作業を進められますことは、行政の中立性を歪めるものであります。何とぞ文部省におかれましては、今臨時国合に向けての、性急な宗教法人法の見直しを取り止めていただきますよう強く要望申し上げる次第でございます。

各筆

京都仏教会
理事長 有馬頼底

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